新型コロナウイルスと油 -油脂は人類を救う!-
| 固定リンク 投稿者: 応用生物学部スタッフ
日本を含め世界中で新型コロナウイルスが猛威を奮っているが、日本ではやっと感染者の数も大幅に減り、収束に向かいつつある。本キャンパスのある東京都も緊急事態宣言が解除されて、本学も新学期がスタートした感がある。4月、5月と在宅勤務を続けていた私だが、研究室の学生も、この間、学校に来られないため、自分の研究が出来ずに不安な日々を送ったことと思う。
私の食品機能化学研究室の研究対象は、油脂であり、その主な研究テーマは、以下の通りである。
◆ 安全でおいしいフライ食品をつくる。(油脂による食品の劣化機構の解明と防止法の開発)
◆ 環境に優しい食品分析法を開発する。
◆ 油脂の栄養・健康機能を調べる(機能性油脂の開発)。
◆ 食品素材を使って食品中の有害物質を除去する。
すなわち、油脂の観点から食品の安全性や栄養・健康機能を考えることを当研究室の主たるテーマとして、学生が卒論や修論に取り組んでいる。
自宅での自粛期間の間、私達の研究が、この新型コロナウイルスによる感染症の予防や治療に役立つことがあるのだろうかと、自分自身に問いかけてみた。私達の研究は、食品分野であり、医薬に関わるものでないことから、全く意味がないのではないかと思われたが、あらためて油脂とは何かを考えたところ、私達の研究がこの新型コロナウイルスの感染の予防に役立つかもしれない、との思いに至った。
細菌やウイルスの感染防止には、石鹸による手洗いと、アルコール等による消毒は必要不可欠であることは周知のごとくである。このうち、石鹸は、油脂を原料として作られている。私達は、油脂を食品としてみなしていたが、油脂は食品として利用されているだけでなく、石鹸や洗剤などの工業品のほか、髪油のような化粧品や医薬品等にも利用されている。
石鹸は、化学的には高級脂肪酸の塩で、通常、炭素数が12~18の脂肪酸のナトリウムNaやカリウムKの塩である。一般的に、牛脂・豚脂・ヤシ油などを配合した油脂を水酸化ナトリウム水溶液で「ケン化」することでつくられる。石鹸は界面活性剤であり、油や油を含む汚れを水に分散させる作用により洗浄能力を持つが、細菌やウイルスを洗い落とすことで物理的に除去する「除菌作用」を持つ。またウイルスに対しては、ウイルスを構成する脂質二重膜を破壊することで不活作用を示すとされる。
洗剤は、石鹸以外の界面活性剤を含むものを指すが、洗剤に用いられる界面活性剤のうち下記の界面活性剤が、新型コロナウイルスの消毒に有効であることが報告されている。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム・アルキルグリコシド・アルキルアミンオキシド・塩化ベンザルコニウム・ポリオキシエチレンアルキルエーテル
これらのうち、アルキルグリコシドは、脂肪族アルコールと糖がグリコシド結合した非イオン界面活性剤(ノニオン界面活性剤)である。その代表的なアルキルグリコシドの構造を図に示したが、ヤシ油の脂肪酸(炭素数が8~18で、炭素数12のラウリン酸が主)を還元して得られる脂肪族アルコールと、トウモロコシデンプンを加水分解して得られるグルコースから作られる。
このように、細菌やウイルスの感染を防止するための石鹸や消毒液は油脂や食品を原料としているものが少なくない。その意味で私達の研究は、決して無意味ではないといえる。これら油脂を原料とした石鹸や消毒液を使って新型コロナウイルスによる感染が一刻も早く収束することを願う。
遠藤泰志