培養細胞の変化を数式で表す
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今回は、研究室で行っている細胞応答のモデリングの研究について紹介します。
一般に、細胞株を用いる培養細胞の実験では、細胞を植え替える継代培養を行います。このときに、シャーレに接着している細胞をタンパク質分解酵素のトリプシンを使っていったんはがしてから、新しいシャーレに植え継ぎをします。平べったく張り付いていた細胞は、はがれて球形になって、再び接着して平べったくなり、増殖していきます。この変化を見るために、水晶振動子というセンサーの上で細胞を培養して、水晶振動子の共振周波数の変化を測定すると、接着過程の変化が一次遅れ応答関数という式で表されることがわかりました。この一次遅れ応答関数は、化学反応の一次反応速度式の濃度変化の式に似た変化をします。
さらに、抗がん剤などの細胞死を起こす化学物質を入れると、細胞はだんだん弱って死んでいきますが、測定の結果では、細胞死を起こすプロセスは、多くの場合2段階で起きていることが分かってきました。この反応は、多くの細胞の細胞周期がばらばらの場合は、少しずつ時間がずれるため、対数正規分布という関数で表されることが分かりました。共振周波数変化は、時間差のついた2つの対数正規分布関数で近似することができ、式の大きさを調整するパラメーターから細胞の生存率などを見積もることができます。また、薬物がどのように作用しているのかを調べることにも利用でき、今後、新しい細胞応答の評価方法として発展できるのではないかと期待しています。
生命ナノ工学研究室 村松宏