里山の端午(たんご)を祝うイワウチワ -三方倉山探訪記-
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ゴールデンウイークは毎年、春スキーか、もしくは登山(ハイキングといった方が正確かもしれない)をすることが私ら夫婦の慣習となっている。仙台に家を構えているため、東北の山に登ることが多いが、この時期は、千mを超える東北の山々には雪がまだまだ多く残っており登山には不向きな感がある。そのため登山シーズンの最初は、手軽に登れる標高の低い里山を好んで登ることが多い。
今年のゴールデンウイークは、仙台市の南西、仙台市太白区と川崎町の境に位置する「三方倉山(さんぽうくらやま)」に登った。三方倉山は、我が家から車で1時間程走った、二口渓谷の玄関口に位置する端正な三角形の形をした標高971mの山である。この山は私ら夫婦にとっては初めての山である。それは、この山の登山道が作られたのが10年前と最近であり、今年ガイドブックを見て初めてその存在を知った。
登山口そばにある二口キャンプ場の駐車場に車を停めた後、二口沢を渡り三方倉山に登り始めた。登山道は、ブナ平コースとシロヤシオコースがあり、山を一周できるようになっている。今回は、ブナ平コースを登りに選ぶことにした。登山道に入り、まず目にしたのは、道の両脇にイワウチワが咲いていることであった。イワウチワは、イワウメ科イワウチワ属の多年草で、葉の形状がうちわに似た形状であることからこう呼ばれている。本州では中国地方から北域の広葉樹林帯でよく見られる花であり、その花弁は3㎝程の大きさで薄紅色を呈するとてもかわいらしい花である。イワウチワは、これまで見たことのない数でブナ林の中で増えていき、我々を迎えてくれた。
ブナ林を過ぎると、目の前に柱状節理の岸壁が現れた。これが本当に天然の産物なのかと目を疑うほどに、まるで城の石垣を思わせるように四角い石が整然と並んでそびえたっていた。自然とは何て偉大な創造者なのかと、あらためて驚かされた。柱状節理の岩壁に沿って標高差200mの急な傾斜を、汗をかきながら登り終えるとふいに白い残雪が現れた。この時期としては気温が高く暑い中、残雪の上を吹き抜ける風はとても心地よかった。登山口から約2時間の歩きで頂上にたどり着いた。山頂は小さな広場で樹木が広がり展望はきかなかったが、木立の間から、北側には台形の頂をした大東岳が、また南側には山頂に雪を抱いた蔵王連峰を見ることができた。
下りは、シロヤシオコースを歩くことにした。ガイドブックでは、シロヤシオがたくさん咲いている場所と書かれていたので、期待しながらつづら折りを下った。シロヤシオは5月初旬からが開花となっていたが、残念ながらシロヤシオの白い花を見つけることはできなかった。しかし、思わぬサプライズが我々を待っていた。斜面一帯をカタクリとイワウチワが競演し花畑を作っていた。我々はその姿に圧倒され「素晴らしい」しか声が出なかった。仙台市に30年以上住んでいるが、市内にこんなに美しい里山があることを知らなかったことに驚きを隠しきれなかった。この群落は数100mにも続き、我々は何度もシャッターを押してこの花畑の光景をカメラに収めた。1時間半ほど下山してスタート地点の登山口に戻ったが、このような素晴らしい里山に登山道を整備してくれたボランテイアの方々にあらためて敬意を表したい。
里山は、場所によって当然景色は変るが、植生も異なる。これまで宮城県内やその近県でカタクリや水芭蕉、ニリンソウが群落する里山を見てきたが、それに匹敵する感動を再び得て、里山の奥深さを再認識した登山であった。
応用生物学部 遠藤泰志
登山口から見た三方倉山