植物だって日々考えています!~紅葉に見る植物の栄養リサイクル~
| 固定リンク 投稿者: 応用生物学部スタッフ
さて今回は、日本の四季の代表的な風物詩である『紅葉(黄葉)』から、植物の巧妙な生存戦略と栄養リサイクル機構に関して、少し先端的な研究を交えて、解りやすくご紹介出来たらと思います。
皆さんは、秋の落葉を見るとどのように感じるでしょうか?
『夏場元気に緑色だった葉が、寒くなってきたので元気なく黄色になり、そして落葉している』と何となく思う人もいるかも知れません。でも、この『黄葉と落葉』には、植物が厳しい自然環境に如何にして適応してきたかの知恵がたくさん詰まっています。
落葉樹は春に冬芽が発芽して葉を展開し、夏の間に盛んに光合成をして、自らを生長させ、種子を作るための養分を貯蔵します。秋になり日照が短く気温が下がってきたとき、落葉樹が緑の葉をつけたままだとしたらどうなるでしょう?葉の葉緑体での光合成能力が落ちて植物体全体のエネルギーを維持できなくなります。そこで生育に不利な時期には、一度落葉して、幹側に栄養を蓄積させ、翌年の春を待つのです。
つまり、植物は日長や温度等の外部環境を正確に把握して、自ら積極的に紅葉(黄葉)と落葉を引き起こしていることになります。
葉の葉緑体には、光合成を効率的に行うための複数の色素が含まれており、大部分を占める葉の緑色はクロロフィルに由来し、黄色はカロテノイドに由来します。紅葉の時期に、葉が黄色くなるのは、色素の大部分を占めるクロロフィルが分解され、アミノ酸にまで分解され、隠れていたカロテノイドの黄色が現れることによるためです。このクロロフィル分解により、葉から大量のアミノ酸が幹側に移動・蓄積し、新芽の新しいエネルギーになるわけです。
最近の私達の研究から、皆さんが毎日食べているイネにおいて、『オートファジー(自食作用)』と呼ばれる分解システムが、葉緑体の分解を担っており、植物体内のアミノ酸や窒素に代表される栄養のリサイクルに貢献していることが明らかになりました。
http://www.teu.ac.jp/press/2015.html?id=82
緑色や赤色の蛍光を発するタンパク質(GFP、RFP)を利用したライブセルイメージング技術をイネに適用し、イネの生きた葉や根でオートファジーを可視化することに成功しました。さらに、葉緑体がGFPで光るイネを作出し、葉緑体分解の可視化にも成功しました。このような研究は、植物の栄養リサイクル機構の解明に役立つだけでなく、「効率的に栄養を利用できる植物を作る」といった応用研究への発展も考えられます。
オートファジーは、植物に限らず、ヒトを含む動物や酵母といった「真核生物」に分類される生物が広く持っている機能で、細胞の一部を小胞で隔離し、その内部を分解するシステムです。現在、オートファジーは創薬を含めた多くの研究者が注目する生命現象の一つとなっています。
もしかしたら樹木の黄葉や落葉にも、この『オートファジーによる葉緑体分解』が重要な役割を果たしているのかも知れませんし、研究の興味は尽きません!
是非皆さんも、身近な植物や樹木をちょっと立ち止まって、見てみて下さい。
日常に溶け込み過ぎて気にも留めない現象にも、実は不思議や興味がたくさん隠れているかも知れませんので…