Are we alone in the universe?
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We are not alone
1977年公開の映画「未知との遭遇」は、スティーブン・スピルバーグ監督の手による作品です。地球外知的生命体(つまりは宇宙人)との出会いがこの映画のテーマであり、予告編で語られたキャッチフレーズが、" We are not alone"「我々人類はこの宇宙の中で唯一の存在ではない」でした。20年前くらいを境に、我が国ではUFOや宇宙人といった話題が全く聞かれなくなりました。しかし、「地球以外に生命はいるのだろうか」という問いかけは、実は生物学上のみならず、自然科学上の最もインパクトが大きいテーマであることに変わりはありません。このテーマに果敢に挑もうとする二つの研究テーマについてご紹介します。
たんぽぽ計画 タンポポは、種を綿毛につけて風に乗って飛ばします。種が落ちた場所が、発芽に適した場所(水が十分ある・温度が適当)であれば、やがてその場所にタンポポが根付き、黄色い花を咲かせるでしょう。タンポポの種と同様に、生命の種が宇宙空間を漂っているのではないか、という考えがあります。この考え方はパンスペルミア説と呼ばれ、古くかられっきとした大化学者が唱えてきた説です。具体的には、宇宙空間を漂う宇宙塵や彗星に微生物が付着しており、はるか昔にそれが地球に到達して、地球に住む生物の源になったのではないか、という考え方です。この考え方が正しければ、今でも宇宙空間に生物が漂っている可能性があります。すでに航空機を使って成層圏(高度10 km)近くの空間からデイノコッカスと呼ばれるバクテリアが採集されています(図1)。筆者の研究グループは、エアロゲルと呼ばれるアモルファスガラスを国際宇宙ステーション(ISS)の実験モジュール「きぼう」に搭載し、一年間宇宙空間に暴露して、宇宙空間を飛来している宇宙塵やスペースデブリを捕獲する研究計画を進めています。エアロゲルに捕獲された微粒子を地球に持ち帰り、厳重な管理のもと、生命の痕跡(DNA断片など)を分析する予定です。すでに宇宙航空研究開発機構(JAXA)の正式プロジェクトとして認められ、近い将来の打ち上げが計画されています。
図1 液体培地中で増殖したデイノコッカス。赤い色をしており、乾燥にも強い。
MELOS計画 望遠鏡が発明されて以来、地球の隣の惑星である火星には、生物がいるのではと考えられてきました。皆さんも映画やSF小説でご承知の通り、タコ型宇宙人が想像されてきました。科学的には、1970年代以降アメリカの探査機による火星生命探査が行われてきました。バイキング、ソジャーナー、オポチュニティ、キュリオシティと呼ばれる探査機によって、以降40年間断続的に生命の痕跡を探す計画が進められました。今のところ、NASAは火星で生命を発見したという証拠を得ていません。あくまでも「生命の証拠」を探しているがゆえに、決定的な証拠が得られていないと思われます。一方、筆者の所属する研究グループでは、火星に生命探査顕微鏡を送りこんで、直接火星土壌中の微生物を探す計画(Mars Exploration with Lander-Orbiter Synergy計画)を進めています。火星という、地球とは全く異なる温度・気圧環境で、細胞内のDNAやタンパク質を直接観察するための様々な技術が開発されています。
宇宙開発は天文学や物理学、機械工学の独壇場と思われがちですが、いまや生物学者がどんどん参加できる時代となりました。それどころか、生命探査には「生物とは何か」をきちんと定義できる生物学者の協力が不可欠です。また、宇宙という極めて過酷な環境で、宇宙飛行士が長期間活動するためには、医者にかかれない状態で健康管理が必要です。いわば究極の予防医学が必要となるのが宇宙という舞台です。私の研究室では、宇宙生命探査と、宇宙における臨床検査を二つの柱として、JAXAやUC Berkeleyと共同で研究を進めています。その成果は、そのまま地球上における環境・医療科学に役立ちます。宇宙という広い観点から生命の不思議を探りたいみなさん、是非一緒に宇宙を目指しましょう。
応用生物学部 佐々木聰