田舎のネズミと都会のネズミ
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田舎のネズミと都会のネズミ
応用生物学部教授 斉木博
童話に都会のネズミと田舎のネズミという話があります。田舎のネズミが都会のネズミを訪ねていって、チーズやお菓子などおいしい食べ物をたくさんご馳走になりますが、猫に襲われて怖い思いをするというお話で、やっぱり田舎のほうがよかったいうことですが、現実はなかなか田舎のネズミも大変です。
八王子の上恩方から山梨の上野原市西原の山の中に引っ越して2年になります。いずれも自然が豊かなところで、猿や猪、鹿、狸、野ウサギなどが生息しています。唯一つ、私は蛇が嫌いで、蛇が多いことが悩みの種です。ネズミも出ますが、それほど嫌いなわけではありません。しかし家内が嫌がるのと、夜、かさこそと煩いので、ネズミ捕りを仕掛けて捕まえることとしました。
最初はチーズを餌にしましたが、まったく捕まりませんでした。次にお餅を餌にしたところ、これは良く捕まります。近所の方のお勧めで、トウモロコシの芯を使ったところ、これも良くかかります。この辺のネズミは都会のネズミと違って普段食べつけている御馳走は意外と貧しいようです。田舎のネズミと都会のネズミは種類が違います。都会のネズミは家ネズミと呼ばれるのに対して、田舎に出没するネズミは野鼠です。英語で言えばratとmouseの違いがあり、大きさもだいぶ違います。野鼠はペットやで売っているハツカネズミの仲間です。つぶらな可愛い目をしています。最初、カインズホームで買ってきたネズミ捕りを仕掛けたときは、ネズミ捕りには入ったのですが、網の目が粗いために網を通り抜けて逃げてしまいました。そこで、家内が網の目の間をさらに針金を通して、より細かな網として使用しました。さすがに今度は逃げられず、ネズミさんは捕まってしまいました(写真1)。
この辺の人は捕まえたネズミは害獣ということで、殺してしまうのですが、殺すに忍びなく、大学の遊歩道近くの山の中にこっそりと逃がしてやりました。人間に悪さをしないで幸せな人生(ネズミ生?)を送ることを祈っています。童話では田舎のネズミは食べ物こそ、おいしいものはありませんが、安心で安全な生活のほうがよいということになっていますが、現実は、蛇やトンビなどの鳥、さらにはハクビシンのような肉食獣がいてなかなか厳しい毎日が待っています。しかも、冬には食べるものがなくなるので、夏の間に冬の食料を集める必要もあります。田舎のネズミが果たして本当に気楽な生活ができるのかは疑問です。
私の住む集落は、山間にあり、斜面を利用して畑はつくれますが、田は作れず、産業といえばわさびの栽培が可能なくらいです。昔は山を利用して材を生産したり、炭を焼いたりして人口も多かったと聞いていますが、今では子供も減り、高校や中学も廃校となり、残った小学校も生徒数が10人前後で、2,3年後には廃校になるのではうわさされています。私の住む集落にも。おじいさんや、おばあさんは多いのですが、子供は一人もおらず、限界集落といわれています。交通の便も、平日のバスの便は、JR上野原の駅まで、1日3本くらいで、私の集落に行くにはバス停からさらに3キロほど歩く必要があります。車を使う人は多いのですが、仕事以外ではあまり街中へは出かけないようです。水道や下水が来ていないので、山の水や湧き水を利用していますが、水道代がかからないというメリットがあります。電気とガスは使えます。確かに不便ではありますが、ここは童話に出てくる田舎のネズミが住むような気楽な生活があります。それほど豊富な食べ物があるわけではありませんが、畑を利用して野菜や芋、トウモロコシを作る人は多く、それらを食すれば、それほどお金も必要ではありません。田舎のネズミの安楽な生活は、実は田舎に住む人々の暮らしそのものに思えます。ストレスの少ない気楽な生活は田舎であればこそ可能なのかもしれません。この結果、近所のお年寄りは高齢でも元気で畑仕事をしています。
今回は、田舎のネズミの気楽な生活は、実は田舎に住む人々の間にあったというお話です。