おいしさの基準-ワインその1-
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おいしいものを食べた時のよろこびは、人を幸せにします。まさに、おいしさは人の生活を豊かにしています。さて、おいしいもの、おいしくないもの、どこに違いがあるのでしょうか。ひとそれぞれと言ってしまえば、それで話は終わってしまいますが、おいしいと評判のラーメン屋には長い行列ができ、様々な食品においしさを競うコンクールがあるところを見ると、おいしさにも多くの人が共通して感じる要因があるようです。私が研究しているワインの香りとおいしさの関係に注目してみると、おいしさに関連した要因として、オフフレーバー、バラエタルアロマなどがあります。オフフレーバーは、ワインにあってはならない不快な香りです(フレーバーという言葉は、口に含んだときの味や香りを総合した風味を意味しますが、ここでは、香りの話に限定します)。代表的な例としてコルク臭があります。コルクの木の香りが悪い香りなの?と疑問に思われる方もいるかもしれませんが、ここでのコルク臭は、コルクに生えたカビの臭い、カビ臭さを意味します。レストランでこのカビ臭さを感じるワインに遭遇した場合、劣化したワインとして交換してもらうことができます。ワイン審査会で、オフフレーバーが見つかると、他に良い特徴があったとしても、残念ながら落第点になってしまいます。ワインのように長い歴史を持つ食品は、このオフフレーバーに対する共通の基準がかなりしっかりとできています。
一方、バラエタルアロマ(ブドウ品種に由来する香り)は、多くの場合、おいしさに対してポジティブにはたらく良い香りとして評価されます。これは、ワイン造りの基本が、原料となるブドウの特徴をうまく引き出すことにあるからです。ワインの香りに、それを製造したブドウ品種の特徴が感じられることが、ワインのおいしさをより高めてくれます。品種の特徴が感じられないワインは、評価が低くなります。ワインの香りのもととなる揮発成分を機器で分析してみると、そのほとんどが、発酵によりできたものです。そうなると、どんなブドウで造っても、ワインの香りは発酵で決まってしまうことになりますが、実際は、発酵によりできた揮発成分に隠れている、量的にはごくわずかな、ブドウ由来の香りが重要になります(これを果実アロマと呼びます)。ワインの香りに、この果実の特徴を見つけることが、おいしさにつながります。ワイン用ブドウとして評判の良い、カベルネ・ソービニヨン、メルロー、シャルドネなどは、この品種由来の香りが心地よいおいしさを生む品種といえます。
(高柳 勉)