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鯨・南の魚・鶴・鳳凰・兎 ~晩秋の夜の動物ウオッチング~

行く末は空もひとつの武蔵野に草の原よりいづる月影

藤原良経が詠んだ歌です。仕事を終えて研究所棟の建物を出ると、秋の武蔵野の空にぽっかりときれいな月が昇っていることがあります。冬の到来を目の前にして、空気はいよいよ澄みわたります。

透明度の高い秋の夜空を見上げると、さびしい感じがします。夏にはこと座やはくちょう座、冬にはオリオン座やおおいぬ座といった、明るい星を従えた星座がたくさんありますが、秋の星座の中で、一等星はみなみのうお座のフォーマルハウトだけです。明るさも一等星の中ではやや暗い1.16等です。みなみのうお座の下にはつる座があります。最も明るいα星アルナイルは1.7等星、次に明るいβ星は2等星です。この二つが関東地方では地平線の上すれすれに見えます。南の方角には横浜や相模原といった大都市が夜も眠らず明々と光り輝いているので、これらの星座を見る機会はあまりありません。でも、久しぶりにフォーマルハウトやアルナイルを見つけられた時には、旧友に出会ったような嬉しい気持ちになります。

Grus2

みなみのうお座の東に、ちょうこくしつ座という聞きなれない名前の星座があります。オリオン座などの有名は星座とは異なり、この星座は18世紀になって命名された星座です。明るい星もなく、全く目立たない星座ですが、この星座の方向に天の南極があります。私たちが住むこの地球は天の川銀河という小宇宙の中にありますが、天の川銀河は円盤のような形をしています。従って、円盤の面の方向を地球から見れば、たくさんの星が帯のように見えるのです。これが天の川です。この円盤に垂直な方向が天の北極と南極になり、天の川銀河を形成する星が少ないので、遠くの宇宙まで見渡せることになります。天の北極はかみのけ座の方角にあります。さて、天の南極ちょうこくしつ座の方角を見ると、遠くの銀河を見ることが出来ます。NGC253という小宇宙は双眼鏡でも比較的見やすい銀河です。この秋は、小型デジタルカメラでこの小宇宙を撮影しようと思っています。

この宇宙には、地球外生命体がいるのでしょうか?応用生物という、「やくにたつ」生物学を追い求める毎日の中で、時々考えます。目的の微生物を培養しようとしても、どうしても雑菌が入ってしまったり、あるいは滅菌をしたつもりでも、いつの間にか雑菌がふえてしまったりすることがよくあります。私たちの周りにはこんなに生物がありふれているのに、地球から離れてしまうと月にさえ生物を見つけだすことが出来ないということは驚きです。

ちょうこくしつ座の南にはほうおう座、北にはくじら座があります。くじら座のτ(タウ)星は、太陽と似た恒星であると考えられているため、地球外知的生命体探査(SETI)の標的となった最初の星です。残念ながら地球外生命が存在する証拠は得られませんでした。しかし、生命が私たちだけだったら、宇宙(スペース)がもったいないですよね*。くじら座にはもう一つ面白い星があります。ミラという名の変光星です。一年弱の周期で2等星から10等星まで明るさが変化します。膨張と収縮を繰り返していると考えられていますが、こんな星が近くにあったら近くの惑星に生命は住めるのでしょうか?

環境が周期的に変化する方が、生存に適することもあると思います。数万年前の人類の文明の発展のきっかけとして、冬の寒さをどうやって乗り切るかという切実な悩みがあったと考えられます。気温やpH、温度の周期的な変化があってはじめて、生物は様々な遺伝子を持つようになり、その後襲ってくる環境の変化にも適応できる子孫を残すようになったのではないでしょうか。ひょっとすると、周期的に環境が変化するところに住んでいる生命の方がたくましいのかもしれません。イタチとウサギのように、捕食者と被食者が存在する空間で両者の個体数がどのように変化していくかを計算する上で、非線形科学という学問が役に立ちます。コレラ菌のような病原菌が病原性を持つようになるのも、実は非線形科学を使って予測できるのではと私は考えています。モデル微生物として、光るバクテリアを用いた実験を行っています。星の光も、バクテリアの光も、人類が明りを発明するはるか昔からこの世に灯っていたものなのですね。周期的に変化する環境にすむ生物、あるいは生物が示す周期性を日々研究しながら、はるか彼方の天の南極に思いをはせる八王子の晩秋です。

Canismajor

イクメンササキ

*ある映画の台詞の受け売りです。すみません。

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